中小企業経営
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中小機構の経営自己診断システムで上場大企業を分析してみた(その3)
2024-08-10
中小機構が無料で提供している経営自己診断システムで、日経プライム市場の有名企業を分析してみよう。の最終回です。最後はユニクロやGUで有名なファーストリテイリングです。 ### ファーストリテイリングの分析結果 ファーストリテイリングの直近の通期決算は2023年8月期で10月12日に発表されました。 <div class="iframely-embed" data-embedded-url="https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/earning_back.html#y2023"><div class="iframely-responsive" style="height: 140px; padding-bottom: 0;"><a href="https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/earning_back.html#y2023" data-iframely-url="//cdn.iframe.ly/api/iframe?url=https%3A%2F%2Fwww.fastretailing.com%2Fjp%2Fir%2Flibrary%2Fearning_back.html%23y2023&key=878c5bef402f0b2911bf6d4ce6261abd">バックナンバー | FAST RETAILING CO., LTD.</a></div></div><script async src="//cdn.iframe.ly/embed.js" charset="utf-8"></script> | | | | --- | --- | | 売上高 | 2兆7,665億円 | | 営業利益(率) | 3,810億円(13.8%) | | 経常利益(率) | 4,379億円(15.8%) | ファーストリテイリングは8月決算なので、直近の通期決算が1年近く前の実績となります。 売上収益が前期比20.2%増と、3期連続で過去最高の業績を残し、2024年8月期の第3四半期決算では通期業績予想を引き上げ、4期連続の過去最高業績が確実となっています。 <div class="iframely-embed" data-embedded-url="https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/earning.html"><div class="iframely-responsive" style="height: 140px; padding-bottom: 0;"><a href="https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/earning.html" data-iframely-url="//cdn.iframe.ly/api/iframe?url=https%3A%2F%2Fwww.fastretailing.com%2Fjp%2Fir%2Flibrary%2Fearning.html&key=878c5bef402f0b2911bf6d4ce6261abd">決算説明会 | FAST RETAILING CO., LTD.</a></div></div><script async src="//cdn.iframe.ly/embed.js" charset="utf-8"></script> それでは通期決算資料から、経営自己診断システムで分析してみましょう。 ### ファーストリテイリングの総合分析結果 ![img-blog-diagnosis-firstretailing01.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/e43e56f8-190c-4d83-99a9-cbb7c9498fe6/img-blog-diagnosis-firstretailing01.webp) 過去最高業績を更新しただけあって、ダントツの収益性を誇っています。相対的に低いのが効率性です。 トヨタ自動車、ソフトバンクグループと共に効率性が低い結果が出ているのは大企業ならではなのかもしれません。詳しく見ていきましょう。 ### ファーストリテイリングの収益性は売上高営業利益率が高い ![img-blog-diagnosis-firstretailing02.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/dc28208e-22ff-4979-93df-9d7c2f93ff7a/img-blog-diagnosis-firstretailing02.webp) 評価が高い収益性ですが、売上高総利益率に比べ売上高営業利益率のスコアが高いことが目立ちます。 これは企業全体のコストがコントロールされているため、商品そのものの利益率(粗利率)よりも相対的に企業活動の利益率が高いことを示しています。 利幅の少ないカジュアルウェアを主力としながら、オペレーションの巧みさで利益を稼ぎ出すファーストリテイリングのビジネスモデルをよく表していますね。 これを3期連続、4期連続で継続しているファーストリテイリングの企業努力は素晴らしいとしか言いようがありません。 ### ファーストリテイリングの効率性は総資本回転率が低い ![img-blog-diagnosis-firstretailing03.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/49cddb31-d0a9-4400-9c3a-e14501c643c1/img-blog-diagnosis-firstretailing03.webp) 総合分析結果でもあったように、トヨタ自動車、ソフトバンクグループと同様、注意が必要な指標として総資本回転率が上げられています。 ファーストリテイリングの総資本回転率は0.64回。総資本に対して売上高が0.64倍ということで、一般的には資本を活かしきれていないと見られます。 しかし、他の2社と同じく大企業はそもそも総資本が大きいものであり、毎年利益を上げ続けて設備投資をしてきた結果でもあります。 棚卸資産回転日数においても、製造小売業(SPA)でありながら62.43日と、事業規模の大きさに比べ2ヶ月で売り切っている結果は評価できます。 ### ファーストリテイリングの倒産リスクは82点で安全ゾーン ![img-blog-diagnosis-firstretailing04.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/a3d5183b-b28c-4bbd-b309-8cca1b1e36d1/img-blog-diagnosis-firstretailing04.webp) 最後に安全性評価による倒産リスクの分析です。82点と高得点で全く問題ありませんでした。 トヨタ自動車やソフトバンクグループと比べると流動比率、当座比率の割合が高すぎるため、やや資金効率の追求が足りないように見えます。 もちろん、一般的には現金保有比率を高めることが正しいのですが、ファーストリテイリングのような大企業の場合、大量の現金を余らせて活用できてないという見られ方もされてしまいます。 カジュアルファッションは競争の激しい業界ですし、景気や流行の変化にも敏感でしょうから、経営リスクを考えた結果なのでしょう。 現在のところ絶好調という状況ですが、今後の経営方針や投資戦略が気になりますね。2024年8月期の通期決算発表が今から楽しみです。 ### 自社の業績で課題を感じておられる経営者はお気軽にご相談ください 以上、トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、ファーストリテイリングと日経プライム市場の上場企業3社を、中小機構の無料サービス、経営自己診断システムを使って分析してみました。 大企業だけに実態に沿った結果が出ない面もありましたが、概ね使い勝手が良いサービスだと感じました。手元に決算書があれば10分程度で簡単にできます。 PDFで保存することもできるので、定期的に分析することも良いでしょう。また、競合企業の決算データがもし入手できるのであれば、このシステムを使って弱点を発見することもできそうですね。 分析結果が客観的にわかることは良いですが、要因解析や問題の対策にはやはり専門家のアドバイスが必要です。自社の業績で課題を感じておられる中小企業の経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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中小機構の経営自己診断システムで上場大企業を分析してみた(その2)
2024-08-07
中小機構が無料で提供している経営自己診断システムで、日経プライム市場の有名企業を分析してみよう。の続きです。今回はソフトバンクグループです。 経営自己診断システムは、企業が自らの財務データを入力することで、経営状態を分析し、強みや課題を明らかにするためのツールです。 ### ソフトバンクグループの分析結果 ソフトバンクグループの直近の通期決算は2024年3月期で5月13日に発表されました。 <div class="iframely-embed" data-embedded-url="https://group.softbank/event/earnings_2023q4/"><div class="iframely-responsive" style="height: 140px; padding-bottom: 0;"><a href="https://group.softbank/event/earnings_2023q4/" data-iframely-url="//cdn.iframe.ly/api/iframe?card=small&url=https%3A%2F%2Fgroup.softbank%2Fevent%2Fearnings_2023q4&key=878c5bef402f0b2911bf6d4ce6261abd">2024年3月期 決算 | ソフトバンクグループ株式会社</a></div></div><script async src="//cdn.iframe.ly/embed.js" charset="utf-8"></script> | | | | --- | --- | | 売上高 | 6兆7,565億円 | | 営業利益(率) | 5,600億円(8.3%) | | 経常利益(率) | 578億円(0.9%) | ソフトバンクグループは、通信事業会社としてソフトバンクがありますが、グループ資産としての実態はビジョンファンドを中心とした投資会社の影響が大きいです。 典型的な国内企業との比較が難しいのですが、決算資料から読み取れる損益計算書と貸借対照表のデータを入力し、経営自己診断システムで分析してみました結果はこちらです。 ### ソフトバンクグループの総合分析結果 ![img-blog-diagnosis-softbank01.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/2e754633-2f0b-4a19-ae95-bb71cee552ac/img-blog-diagnosis-softbank01.webp) なんとトヨタ自動車とそっくりですね!生産性のスコアがダントツに良く、効率性が悪いと結果が出ました。中身も似ているのでしょうか?詳しくみていきましょう。 ### ソフトバンクグループの効率性は総資本回転率が低い ![img-blog-diagnosis-softbank02.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/92e1e91e-feba-4805-8a7d-518694e1fbf3/img-blog-diagnosis-softbank02.webp) 効率性の指標がすべて著しく低い結果となっていますが、これはソフトバンクグループの特殊性がよく現れています。 まず棚卸資産を持つ情報サービス業ということで、同業界で比較すると不利な結果となっています(情報サービス業は基本的に原材料や在庫を持たない) ソフトバンクグループは、ZOZOやASKULなどリアルな商品を扱う企業も含め1,200以上の子会社を持つ多角企業なためです。 また、投資会社が実態のため資産が厚く、情報サービス業としての本業の収益規模が相対的に小さいため、総資本回転率や売上債権回転日数が極端に低スコアに振れています。 ちなみに総資産はトヨタ自動車の半分強、46兆円です。 ### ソフトバンクグループの安全性は売上高支払利息割引料率が低い ![img-blog-diagnosis-softbank03.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/06569dd8-8c34-4188-a8dc-d90b6de4b11c/img-blog-diagnosis-softbank03.webp) 安全性の中身はどうでしょうか。レーダーチャートはかなり歪になっていますね。 中でも指摘されている売上高支払利息割引料率ですが、これは収益規模に対する借入利息の割合で、通常ですと1%を越えると警戒しなければいけない目安とされています。 ソフトバンクグループはなんと6.4%もあります。借入金や社債をフル活用して投資事業に充てるソフトバンクグループの特徴がわかります。 ### ソフトバンクグループの倒産リスクは40点で警戒ゾーン ![img-blog-diagnosis-softbank04.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/8d50ba1c-d479-45e1-9037-55c807af9e3c/img-blog-diagnosis-softbank04.webp) おもしろいことに、安全性のスコアは40点と、倒産リスクはトヨタ自動車よりも高いと結果が出ました。 これまで株式市場では何度もソフトバンクグループが倒産するのではないかと噂が出ました。 こうしてみるとそれも頷ける結果なのですが、そもそも普通の事業会社とは事業構造も違うし、リスクの取り方、資金効率の考え方もまったく違うので、単純な評価は難しいところですね。 ラストを飾るのはファーストリテイリングです。次のポストで分析してみます。
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中小機構の経営自己診断システムで上場大企業を分析してみた(その1)
2024-08-04
中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)は中小企業の経営支援を目的に、さまざまな情報発信や支援サービスを提供してくれています。 その一つに経営自己診断システムというサービスがあります。 このシステムは、企業が自らの財務データを入力することで、経営状態を分析し、強みや課題を明らかにするためのツールです。 ただ紹介するだけではつまらないので、日経プライム市場に上場している大企業、トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、ファーストリテイリングの3社を分析してみました。イメージとは異なり、意外な面が見られる面白い分析結果となりました。 ### 経営自己診断システムとは 経営自己診断システムは、200万社以上の中小企業(うち7割は年商3億円以下の比較的小規模な企業)の財務データを基に、収益性、効率性、生産性、安全性、成長性などの指標を用いて、企業の経営状態を総合的に評価してくれます。 診断結果は、同業他社と比較することができ、倒産リスクの分析も行われます。登録不要で無料で利用でき、手元に決算書があれば10分ほどですぐに分析結果が出るので、気軽に活用できるのが特徴です。 <div class="iframely-embed" data-embedded-url="https://k-sindan.smrj.go.jp/"><div class="iframely-responsive" style="height: 140px; padding-bottom: 0;"><a href="https://k-sindan.smrj.go.jp/diagnosis/" data-iframely-url="//cdn.iframe.ly/api/iframe?card=small&url=https%3A%2F%2Fk-sindan.smrj.go.jp%2F&key=878c5bef402f0b2911bf6d4ce6261abd">HOME|経営自己診断システム|中小機構</a></div></div><script async src="//cdn.iframe.ly/embed.js" charset="utf-8"></script> ### トヨタ自動車の分析結果 トヨタ自動車の直近の通期決算は2024年3月期で5月8日に発表されました。 <div class="iframely-embed" data-embedded-url="https://global.toyota/jp/ir/financial-results/"><div class="iframely-responsive" style="height: 140px; padding-bottom: 0;"><a href="https://global.toyota/jp/ir/financial-results/index.html" data-iframely-url="//cdn.iframe.ly/api/iframe?card=small&url=https%3A%2F%2Fglobal.toyota%2Fjp%2Fir%2Ffinancial-results%2F&key=878c5bef402f0b2911bf6d4ce6261abd">決算報告 | 投資家情報 | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト</a></div></div><script async src="//cdn.iframe.ly/embed.js" charset="utf-8"></script> | Head | Head | | --- | --- | | 売上高 | 45兆953億円 | | 営業利益(率) | 5兆3529億円(11.9%) | | 経常利益(率) | 6兆9650億円(15.2%) | これら損益計算書と貸借対照表のデータを入力し、経営自己診断システムで分析した結果がこちらです。 ### トヨタ自動車の総合分析結果 ![img-blog-diagnosis-toyota01.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/b163d3d4-9697-4186-a4d6-4e2eda7cc7fa/img-blog-diagnosis-toyota01.webp) 生産性が突出して高いです。これは従業員一人あたりの収益が高いことを示しています。また、効率性と安全性が低いのが意外ですね。詳しく見てみましょう。 ### トヨタ自動車の効率性は総資本回転率が低い ![img-blog-diagnosis-toyota02.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/46e5c8c4-3287-4fb8-a626-fd33367fbea3/img-blog-diagnosis-toyota02.webp) まず、効率性ですが総資本回転率が最低ランクとなっています。貸借対照表によるとトヨタの総資産は90兆円。売上高が45兆円だったので、総資本に対し半分の売上ということで効率が悪いとされているわけですね。 また、棚卸資産回転日数も低スコアです。一方、販売は好調だったので、生産台数を大幅に増加させた結果なのだと推察されます。 ### トヨタ自動車の安全性は当座比率が低い ![img-blog-diagnosis-toyota03.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/4723bd1e-31ad-4201-b5d2-f6702938d335/img-blog-diagnosis-toyota03.webp) 次に、安全性です。流動比率、とりわけ当座比率が低いスコアで意外で面白いですね。低いとはいえ、トヨタは現金が9兆円以上あるので債務には困りません。 ある意味、必要最低限の現金だけ残して、生産や投資に全力投入していると考えれば非常に効率的な経営をしているとも言えます。トヨタほどの信用力が無いとできない芸当でしょう。 ### トヨタ自動車の倒産リスクは44点で警戒ゾーン ![img-blog-diagnosis-toyota04.webp](https://henca.assets.newt.so/v1/b7de0841-d34c-42d2-b4ef-b896e6d26a65/img-blog-diagnosis-toyota04.webp) ということで、面白いことに倒産リスク分析の結果は、警戒ゾーンとなりました。 これはギリギリまで資金効率を高めて経営をコントロールしている結果であり、トヨタの経営哲学を現しているようで、とても興味深い内容でした。 思ったより長い記事になったので、続きは別のポストで書きましょう。次は、ソフトバンクグループです。